なつのかたすみ
静かなスタジオ、けれどスタッフたちは世話しなく走り回っている。
大野は隅の方で、壁に身を預けていた。
落ち着きのない現場、常に誰もが忙しそうで。
以前は自分の場所を探すのに手一杯だったけれど、今では観察できる余裕が出来てきた。
「おはよう、大ちゃん」
「おはよ」
少しだけ遅れて入ってきたのは、共演者の生田だ。
よく知る顔が居ることは、安心できる。そう、このような慣れない場においては。
ただ、お互いの役柄からあまり親しく出来ないのが、残念だけど。
「ちゃんと食べてる?」
「食べてるよー」
会うたびに問われる体調管理のこと、ほんとにどちらが年上なんだか。
「ラーメンばっかじゃない?」
「…ラーメン、うめぇじゃんか」
「つか、また釣り行ったでしょ?」
「…行って、ない、です」
分かりやすい大野の反応に、思わず生田が声をたてて笑う。
その声が聞こえたのだろう、何人かのスタッフが振り返り、2人の様子に思わず笑みを浮かべるのが見えた。
「お早うございます」
田中が、そんな2人の元へ来た。
年下を苦手とする大野に、唯一近づけた男が。
「お早う、圭くん」
「おはようございます」
にこりと笑う男の心中は分からないけど。
近づいてきてくれて話しかけてくれるのは嫌な気分ではない。
(それでも役柄的に馴れ合いはどうしても出来ない)
「あ、そう、釣り、どうします?」
「んー…ほんとに行く気、あるの?」
「ありますよ。興味、ありますもん。それに大野君と、一緒に過ごすのも面白そうですし」
「…聞いてないんだけど」
やけに親しげな2人に、生田は不満げだ。
「圭、俺とゴルフ行くって約束したじゃん」
「行くよ?行くけど、大野くんとは釣り行くって約束してんだよ」
勿論、ドラマが終わった後だけど。うらやましいだろう?とそんなふうに笑う。
「…大ちゃん」
何で俺も誘ってくんないの?そんな目で見れば、彼は困ったように笑う。
「だって、斗真、ぜってーじっとしてらんねーだろ」
ぼそりと言い訳がましく呟かれた返答に、たまらず爆笑したのは田中だ。
「えーそんなことないって!」
「…ずっと、座ってんだよ。直ぐ、釣れるわけでもないし」
「そーそ、斗真、お前、じっとしてるの無理でしょ」
田中にも、加勢されてしまい、生田は、むーと唸る。
言われてみれば、そうかもしれない。何しろ、自分はじっとしていられない性格だった。むかしから。
「あ。納得した?」
大野が嬉しそうに笑って、生田の頬を突いた。
「斗真、直ぐ顔に出るから分かりやすい」
「正直者だもんな、お前」
「えー」
思わず自分の頬を両手で覆う。
そうやって笑う大野は案外、ポーカーフェイスで、その心情を悟らせない。
田中は、正直な奴だけど。
「うーじゃ、大ちゃん、ゴルフ行こうよー」
釣りに連れて行ってくれないなら、自分が誘うまでだ。
「…ゴルフ?」
「嫌?」
「やったことないし」
相葉や二宮はやるらしいけど、正直大野にはあまり興味ない分野だ。
「やったことないなら、面白いか面白くないか分からないじゃん」
「…そのうち」
「そのうちって言う、おーちゃんの言葉ほど信用ないものないです」
真顔でぴしっと言われ、大野が固まる。
それを見て、田中が小さく笑った。
2009/02/25
さくさま、ありがとうございました!
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