午 睡
鏡に映る自分の顔色が、あまりに悪くて、思わず笑ってしまう。
色濃く残るのは、隈の後。
「…情けないなー」
呟く声は、小さく落ちる。
食欲がないことも、正直に体に現れている。
顔は、元々丸みが多いためか、さほど目立ってはいないけれど。
体つきは、メンバーから心配されるほど。
みんな、平等に忙しいのに、どうしてだろう、自分だけこうも…こうも、弱いのだろうか。
鏡の中の自分は、あまりに弱弱しく、情けなく笑っている。
久しぶりの、5人の仕事。
大野の顔を見た途端、情けなさそうな顔になる櫻井に、困ってしまう。
別に櫻井に責任はないのに、どうしてそんなに自分を責めるような顔をするのだろう。
環境に付いていけないのも、そのせいで体調を崩しがちになっているのも、自分の責任だというのに。
「おはよーしょうくん」
思わず、へらりと笑ってしまう。自分の悪い癖だと分かっていても。
「…おはよう、智くん。また、痩せた?」
「どうかな…ンなに落ちてねーと思うけど」
嘘だ。1kgは、確実に落ちている。
最近では怖くて、体重計に乗ることを控えようともしていた。
「おはようございます、リーダー」
ソファの上でDSと睨めっこしていた二宮が、顔を上げる。
「うっす」
適当に鞄を置くと、釣り雑誌を取り出した。
最近の、唯一の慰めだ。
物を作るには、時間が要るし、粘土弄りをしてしまったら、撮影に支障をきたす。
色々な制約があり、改めて、メンバーの苦労を知る。
壁に背中を預け、目を閉じれば、自覚していなかった筈の疲れが、如実に伝わってきた。
「りーだー、少し寝なよ」
優しい相葉の声が、降ってきた。
閉じた目の前の闇が、色濃くなり、安心する暖かさを感じる。
相葉が手を翳したのだろうか、問うように顔を上げれば、
「撮影までまだちょっと時間あるし、寝ちゃいなよ。相葉さんの膝貸してあげますから」
楽しそうな声が聞こえ、体が傾く。
ごつごつした足に、頭が乗せられる。
「だーいじょぶだよ、俺らが居るから」
小さな寝息が聞こえてくる。
相葉の手が、優しく大野の頭を撫で、小さく笑った。
「もう、寝ちゃったよ」
「疲れてるんでしょ、仕方ないよ」
いつの間にか、ゲームの音を無音にした二宮が、2人を見て笑う。
松本が、ひざ掛けをそっと大野にかけた。
「…無理すんな、なんて言えねーもんな」
そんなことを望んでないことを、知ってるから。
甘やかされることを、望んでいる人では、ない。誰よりも、自分たちが知ってる。
誰よりも、自身に厳しく、常に高みを目指している人ー…だと。
「もっと、甘えてくれるといいんだけど」
「普段は無意味に甘えるくせにねぇ」
頑張るのは、当たり前だ。
自身が持っている力を使うのは、当たり前だ。
そんなこと、この職業に足を踏み入れた時から、自覚している。
デビューしてから、尚、濃く。
だから、今、頑張っているのは、大野だけじゃいって分かってるけども。
それでも、甘えて欲しいと思うのも、そんな顔を見たくないと思うのも、きっと。
根本は単純な理由からだ。
「終ったら、壮大に祝ってあげよう」
「みんなで釣り行こうよー、船チャーターして!」
「…船は嫌だよ。ぜってー酔う」
「てか、智くんのことだから、一人でのんびり楽しみたいと思うんだけど」
それは、確かに。
大野は、一人を好むだろうし、相変わらず謎な交友関係を持つ大野にはちゃっかり釣り仲間がいる。
ここまで、と言うラインを引かない。
きっと、この世界には合格点なんてないのだから。
明確に見える数字だけが真実でもなく(大切ではあろうけど)
取り合えず、今は、この微睡みだけでも守っていこうなんて、思う。
もう少しだけ、落ち着けばいいだなんて、きっと贅沢な悩みなのだろうけど。
2008/11/10
桜さま、ありがとうございました!
"傷ついているリーダー"がどうしても想像出来なくてこんな形になってしまいました、ごめんなさい。
|